「氷のガバナンス」について、Polar Law Symposium @グリーンランドでパネル報告を行いました
グリーンランドの首都ヌークで開催された第18回極域法シンポジウム(18th Polar Law Symposium)(2025年10月22日~24日)に参加しました。同シンポジウムは、毎年開催される、北極と南極に関する法律の専門家が一堂に会する国際会議です。
極域法は、これまで「氷に覆われた地域」を対象にしてきましたが、「氷」それ自体には十分な注目を向けてこなかったようです。そこで、「水」をテーマに研究する者としての独創的な視点として、「氷のガバナンス」をテーマに据えて研究を始めました。本シンポジウムでは “Ice Governance as a Component of Global Polar Law” と題するパネルを組みました。

「氷」それ自体を理解しなければ、「氷のガバナンス」構想することはできません。そこで、研究の第一歩である本パネルでは、 「氷」についての学際的な議論の場を提供しました。自然科学からは、グリーンランドで調査を行うAsiaq (Greenland Survey) に所属する Kirsty Langley博士、そして気候工学の分野で著名なフィンランド・ラップランド大学のJohn C. Moore教授の2名に加わっていただきました。また、国際関係論から、北極について詳しく氷に関連テーマでも先行研究を発表されているノルウェー・ノード大学のCorine Wood-Donnelly教授にもご発表いただきました。私と、座長を務めていただいた柴田明穂教授は、国際法が専門です。


本パネルの中心的な問いは、「氷の価値とは?」 “What values are attached to ice?” というものでした。Langley博士からは、現地調査から得られた知見も踏まえつつ、氷に蓄積された自然の変化から水力まで具体的な価値を取り上げていただきました。続く、Wood-Donnelly教授は、氷と自決権の関係について検討し、移動(movement)や記憶(memory)といった価値を提示されました。Moore教授は、気候変動の影響を受ける南極大陸や北極圏の氷の現状を踏まえ、ジオエンジニアリング(geoengineering/気候工学)と向き合う必要性を論じられました。最後に、私から、国際法の見地から氷の科学的価値・環境的/生態学的価値・社会的価値・経済的価値・災害防止的価値に整理し、現行法と氷のあるべきガバナンスの展望を試論的に発表しました。


パネルでの質疑応答や、休憩時間の参加者との議論、そして他の研究者の発表から、多くの示唆を得ることができました。加えて、北の地で氷を眺め、氷と暮らす現地の方々の生活を垣間見ることで、氷をより身近に感覚的に感じられたことも、貴重な経験になりました。


本研究に際しては、JSPS研究拠点形成事業「地球益実現に向けた南極ガバナンス研究」(2025〜2030)の支援を受けました。本研究プロジェクトを率いる神戸大学大学院国際協力研究科・神戸大学極域協力研究センター(PCRC)の柴田明穂教授には、パネルの企画から当日の研究発表まで全般的に大変お世話になりました。
